大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)3294号 判決 1986年5月16日
原告
中辻吾朗
右訴訟代理人弁護士
赤沢敬之
三木俊博
被告
岡貞雄
外一一名
右被告ら訴訟代理人弁護士
坂元洋太郎
右同復代理人弁護士
石橋一晁
主文
一 被告らは、原告に対し、各自、金四一〇万七〇九〇円及びこれに対する昭和五二年一二月一日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、各自、九九六万三〇九〇円及びこれに対する昭和五二年一二月一日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告と被告らは、昭和五二年七月一九日、次のとおり約した(以下、「本件契約」という。)。
(一) 被告らは、その所有にかかる別紙物件目録記載の土地(以下、「本件土地」という。)に防災工事を施したうえ、これを宅地に造成して販売することとし、右防災工事並びに宅地開発に関する企画、施工及び販売(以下、「本件事業」という。)を一括して原告に対し委託する。
(二) 本件事業の資金のうち、準備段階において必要とされる費用は原告が一時立替えるが、被告らは、工事着工までに、本件土地を担保に銀行等から融資を受けて、これを事業資金に充てる。
(三) 原告は、防災工事完了後、逐次段階的に宅地開発を行い、造成した土地を順次販売するか、または被告らに一定割合で還元し、これによつて事業資金を補充するとともに被告らの利益を確保することとし、被告らは、本件事業による利益中から原告に報酬を支払う。
(四) 本件土地の素地価格は三・三平方メートルあたり五〇〇〇円と評価する。
(五) 本件事業の期間は、約二年間を予定する。
2 原・被告らが本件契約を締結するに至つた経緯は次のとおりである。
すなわち、本件土地は実測約三万七〇〇〇平方メートルの一団となつた山林であつて、厚南産業有限会社(以下、「厚南産業」という。)が被告らの承諾のもとに土砂の採取を続けていたが、その結果、降雨時には泥水が近隣土地に流出するなどしたため、被告らは、近隣地主より苦情や防災工事施行の要求を受けていた。そこで、被告らは、本件土地を売却するか、または開発工事とともにする売却をしようと考え、地元の不動産仲介業者である中村誠己に右売却のあつせんを依頼し、一時は、小松建設工業株式会社(以下、「小松建設」という。)との間で、売買の交渉を行つたが、昭和五二年六月中旬ころ、同社から本件土地の買受けを正式に断わられ、困窮するに至つた。ところで、原告は、中村からの紹介により、そのころ、被告らと面談し、本件土地の防災及び開発に関する相談に乗つたが、前記のような事情から、その後、被告ら及び中村から度重なる懇請を受けたため、本件事業の遂行を受任することとし、本件契約を締結するに至つたものである。
3 原告は、本件契約に基づき、同月中旬以降、本件事業の企画立案に必要な役所関係の調査、マスタープランの策定、土地測量、設計依頼、積算見積の依頼、土地価額の鑑定依頼、近隣造成宅地の販売価額の調査、土地の地籍確認、近隣地主への協力依頼などの事務を処理したほか、本件事業活動に伴う原被告ら間の連絡調整と将来の販売計画の早期準備にとつて中村の協力を得る必要があつたため、被告らと相談のうえ中村事務所を新設し、また、本件事業遂行の補助者として吉田房夫及び木村哲俊を雇用し、同年一〇月末までに、現地測量、鑑定、設計図面の作成、本件土地への進入路の一部買収の承諾取りつけなどの準備行為を完了した。
4 ところが、被告らは、同年一一月一〇日に至り、本件土地に立入禁止の看板を立て、さらに、同月一六日到達の内容証明郵便により、原告に対し、一切の業務の委託を無効とする旨の通告をなし、もつて、本件契約解除の意思表示をした。
5 原告は、本件契約の処理のため、次のとおり合計六九六万三〇九〇円を必要費用として支出した。また、本件契約は、何ら原告の責に帰すべからざる事由により、履行の途中において終了したものであるところ、本件事業完了の場合に得べかりし原告の報酬は三〇〇〇万円を下らないものというべきであるから、本件契約履行の割合に照らすと、その一〇分の一である三〇〇万円の報酬を請求しうるものというべきである。
(一) 測量費 二〇〇万円
(二) 鑑定料 二〇万円
(三) 設計費 三〇万円
(四) 従業員諸経費 一三〇万九三〇〇円
(五) 交通通信費 七二万四〇〇〇円
(六) 中村関係支払 一七九万六七九〇円
(七) 渉外費 一五万円
(八) 雑費 四八万三〇〇〇円
よつて、原告は、被告らに対し、本件契約に基づき、各自、九九六万三〇九〇円及びこれに対する本件契約解除日の後である昭和五二年一二月一日から支払い済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1のうち、被告らが昭和五二年当時、本件土地を所有していたことは認め、その余の事実は否認する。
2 同2のうち、本件土地が実測約三万七〇〇〇平方メートルの山林であつて、その一部から厚南産業が土砂を採取していたこと、被告らが地元の不動産業者である中村を通じて原告と知りあつたことは認め、その余の事実は否認する。
3 同3のうち、中村事務所の新設にあたり原告が被告らと相談したことは否認し、その余の事実は不知。
4 同4のうち、内容証明郵便の到達日は知らず、その余の事実は認めるが、右郵便の解釈は争う。
5 同5の事実は否認し、主張は争う。
三 被告らの主張
1 被告らは、本件土地を造成して売却することを検討し、昭和五二年二月ころ、被告作村佐一が、中村に対し、その旨話したところ、同年六月二六日ころ、同人は、原告を、被告作村佐一、同岡貞雄、同天野繁及び同内野登(以下、被告内野登、同内野真一及び同内野誠についてはその名で、その余の被告らについてはその姓で略称する。)に、小松建設のコンサルタントであると紹介し、その際、原告自身も、同社のコンサルタントであること、目下「小野湖カントリー」の開発や、美祢郡美東町徳坂において美東町の依頼により大農園の開発をしていることを話した。そこで、被告らは、原告を通じて同社と本件土地の造成売却の話を進めようと考え、同年七月一五日、同社の代理人であると称する原告との間で、同社広島支店工事課長の堤干丈同席のうえ、次のとおり約した。
(一) 被告らのうち一部の者は、同社に対し、本件土地のうち自己所有部分を三・三平方メートルあたり七〇〇〇円で売り渡し、その余の被告らは、本件土地の宅地造成工事を依頼する。
(二) 同社は、売買代金のうち四〇〇〇万円を近々支払う。
(三) 宅地造成工事に伴い、降雨時の泥水の近隣の田への流入防止工事は、被告らが、本件土地売却代金をもつて、別途同社に依頼する。
以上のとおり、被告らは、小松建設との間で右のような契約を締結したものであつて、原告個人とは何らの契約もしていない。
2 仮に、本件契約が成立したとしても、それは、原告が、そのような事実がないにもかかわらず、自己が小松建設のコンサルタントであつて同社が造成工事等を行う旨述べたため、被告らがその旨誤信し、同社が株式上場の大手建設会社で一般には小松製作所の関連会社として信用が厚かつたことから、このような同社が工事を行うのであれば信頼できるものと考えたことによるのであるから、被告らの法律行為には要素に錯誤があり、かつ、右被告らの意思表示は原告の詐欺によるものというべきである。
よつて、被告らは、昭和五五年九月三日の本件口頭弁論期日において、本件契約を取消す旨の意思表示をした。
3 仮に、右2が認めるに足りないとしても、
(一) 原告は、昭和五二年七月一九日以降、徐々に態度を変え、段々と小松建設の名を口にしなくなり、被告らが同社との関係を聞こうとすると怒鳴つて答えなくなつたばかりか、同年九月末ころの話合いの席上では、農協から金を借りるから被告らに借主か保証人になつてくれとか、本件土地を担保にしてくれという話を持出したので、被告らは不信感をつのらせた。
(二) そこで、被告らは、行政書士の藤井亮や不動産業者の田村秀夫に相談したうえ、原告に対し、工事などは小松建設がするのかどうか、工事明細や代金などは具体的にどうなつているのか、国土利用計画法(以下、「国土法」という。)の届出や都市計画法上の開発許可などの手続はどうなつているのかなどの点を問い質したところ、原告は、これに応答し説明することすらせず、経費として七〇〇万円を出すよう被告らに請求したすえ、仕事を放棄した。
(三) ところで、原告主張にかかる本件契約は、その内容からみて、仕事の完成を目的とするものであつて、請負契約に属するものというべきである。
(四) そうすると、原告は、自ら仕事を放棄してその完成に至らないままにしたものであるから、経費や報酬の請求権はないものというべきである。
四 右主張に対する原告の認否及び反論
1 右主張1のうち、被告らが本件土地を造成して売却することを検討していたこと、昭和五二年六月下旬ころ、原告が被告作村ほか三名と面談したこと、原告が昭和五二年七月一五日に被告らと会談したことの各事実は認め、同年二月ころ被告作村が中村に被告らの右計画を話したことは知らず、その余の事実は否認する。
請求原因2のとおり、原告と被告ら間の本件土地をめぐる話合いは、小松建設が同土地の買受けを正式に拒絶した時期から始まつたものであるから、原告が同社の代理人として契約を締結することはあり得ない。
2 同2の事実は否認し、主張は争う。
仮に、被告らが原告を小松建設のコンサルタントであると考えていたとしても、およそ通常の社会常識を備えている者にとつて、コンサルタントとは単に相談・助言をするものにすぎないと判断されるのが当然であるから、委任状も所持しない原告を同社の代理人であると誤信することはありえないうえ、前項記載の事情に照らすと、そのような誤信が全く存在しなかつたことは明らかというべきである。
3 同3について
(一) 同(一)の事実は否認する。
(二) 同(二)のうち、被告らが藤井や田村に相談したことは知らず、その余の事実は否認する。
本件契約は、請求原因4のとおり、被告らの一方的な解除により終了したものであつて、それまで、原告は同契約の履行々為を継続していた。
(三) 同(三)の主張は争う。
原告は、昭和五二年当時は土木建築工事を請負う工事業者ではなく、主として小松建設などの大手企業から依頼を受けて用地買収、物件調査、開発企画の立案調査などの仕事に従事していたものであり、本件契約も、専門の業者に工事を請負わせることを前提として、原告が防災工事及び宅地造成の企画立案、工事発注、造成地販売及び工事費の調達に関する事務処理一切を被告らから委任されたものである。
したがつて、本件契約は準委任契約と解すべきである。
仮に、本件契約が請負契約であるとしても、同契約が被告らからの解除によつて終了したもので、原告には何ら責に帰すべき事由がない以上、被告らが原告の被つた一切の損害を賠償しなければならぬことに変わりはないものというべきである。
第三 証拠<省略>
理由
一被告らが昭和五二年当時、本件土地を所有していたこと、本件土地が実測約三万七〇〇〇平方メートルの山林であつて、その一部から厚南産業が土砂を採取していたこと、被告らが本件土地を造成して売却することを検討していたこと、原告と被告らは地元の不動産業者の中村の紹介で知り合つたもので、同年六月下旬ころ、被告作村ほか三名と原告が面談したことがあつたこと、原告と被告らは同年七月一五日にも会談したこと、被告らが同年一一月一〇日に至り本件土地に立入禁止の看板を建て、原告に対し、一切の業務の委託を無効とする内容証明郵便を発送したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
右当事者間に争いがない事実に、<証拠>を総合すると、次の各事実を認めることができる。
1 本件土地は、実測約三万七〇〇〇平方メートルの山林であつて、被告らが所有し、昭和四六年ころから、厚南産業が被告らの許可を得て土砂を採取していたが、その結果、昭和五二年ころには、北側を除き元の形状を留めないまでに土砂が採取され、周囲に隣接する水田との間は、ひどいところでは高さ五メートルにも及ぶ崖状の段差を生じ、同社が土砂の流出を防止する処置を講じていなかつたため、雨が降ると泥水が隣接する水田へと流れ込む状態となり、被告らは右水田の所有者から苦情を受けていた。
2 こうしたことから、被告らは、隣接地の所有者に迷惑をかけるのを心苦しく思い、その間で、適当な買い手があれば本件土地を売却して早く手を切つた方がよいとか、この機会に本件土地を造成して何らかに利用しようという声が挙がるなどし、被告作村が、昭和五二年二月ころ、地元の不動産業者である中村に対し、本件土地の売却方を依頼した。
そこで、中村は、株式会社浅沼組にこの話を持ち込み、浅沼組と被告らの間で売買の条件をめぐつて交渉がなされたが、売買代金額で折り合いがつかず、遅くとも同年五月ころには右交渉は打ち切られた。
なお、本件土地は、宇部市の南西部の小野田市との境界線近くに位置し、東方約四〇〇メートルのところには国鉄小野田線の長門長沢駅があり、西方には叶松団地が造成されており、第一種住居専用地域に指定されていて、宅地開発を実施すれば、交通の便にも比較的恵まれた中級の住宅地とすることが可能な土地であつた。
3 中村は、昭和五二年五月ころ、宇部市農業協同組合の理事などの職に就いていた山本義雄から、原告を紹介された。当時、原告は、小松建設がクボタハウスから請負つていた小野田市有汎の土地の造成工事に深く関与しており、また、昭和五一年から同五二年にかけて、山本などが推進しようとしていた宇部市小野の土地の開発に助言をしたりもしていたもので、山本は、中村に原告を紹介するに際し、小松建設のコンサルタントでもあると述べたが、原告もこれを否定したりはしなかつた。
そこで、中村は、本件土地の浅沼組への売却の話が立ち消えになつた後の同年六月ころ、原告に対し、本件土地を小松建設において開発するよう勧めてほしい旨持ちかけ、これを受けて原告も、小松建設広島支店工事課長であつた堤干丈にこの話を取り次いだ。
4 そこで、堤は、原告とも連れ立つて、被告大野、同岡及び同作村などと面談し、そのうえで本件土地を視察し、また、宇部市役所に赴いて上下水道に関する調査などをなしたが、その結果、本件土地が上下水道敷設位置からかなり離れていることなどが判明したため、小松建設が本件土地の造成に取り組むのは無理であると判断し、遅くとも同年七月初旬ころ、再度右被告らと会つてその旨を伝えた。
5 その後、原告と被告らは、何度も会合を重ね、その席上で、原告は、被告らが一致団結すれば本件土地を自ら宅地造成することができること、但しその方法としては、本件土地全体を一括して宅地造成するという実質をそのまま表に出したのでは国土法などの規制にかかつて宅地造成ができなくなつてしまうので、これを避けるために、まずは防災工事をするということにして造成工事を実施し、その後に被告ら各自が所有する土地を順次ミニ開発するという形式をとる必要があること、宅地造成等の終了までに約二年間を予定する必要があること、などを述べた。
6 こうした中で、被告岡は、同年七月一九日ころ、「本件土地に関する防災工事その他の工事一切を貴社に委託する。」との内容の「土木工事依託証」(甲第一号証)を作成し、これに同被告ほか八名の被告が署名したうえ原告に手渡し、さらに、同年八月一一日ころ、被告らの代表者に選任された被告岡、同天野及び同松岡は、「本件土地の防災工事その他の諸工事を実施するにあたり、被告ら一同は、(1)測量、設計、手続、調査の一切、(2)防災工事、その他工事一切、(3)用地販売に関する一切、(4)工事代金及び諸経費の調達を委託する。」との内容の予めタイプされた原告個人宛の「依託委任状」(甲第二号証の一)に、被告岡において委託項目として「必要とする日時における物権担保の指示権」を付け加えたうえ、各自捺印し、また、「本件土地の一角に(1)道路整備工事、(2)附帯する保障工事、(3)排水工事、(4)被告らの各所有地接続道路工事を実施することを被告ら一同が注文する。」との内容の予めタイプされた宛名のない「注文書」(甲第三号証の一)にも各自署名し、これらに、各自の印鑑登録証明書各二通と、被告ら各人がそれぞれ署名捺印した委任状及び同意書(甲第四号証の一ないし一二)を添付して、原告に交付した。
なお、当時、被告らのうちの多数の者は、本件土地の自己所有部分を造成したうえ売却するつもりであつたが、一部の者は、自己所有部分を手放すことを肯んじえず、そのため、そうした者は、造成地のうち、旧所有地の価値に相当する部分を取得するということになつており、原被告らは、造成地を売却することを「買取り方式」、造成地の一部を取得することを「歩分け方式」と呼んでいた。そして、右売却ないし造成地取得の旧所有地の評価額(素地価格)は、一坪あたり七〇〇〇円とすることになつていた。
また、右話合いに際し、被告らは、本件土地の造成工事や販売に関して金員を出捐する意思はないので原告においてしかるべく処理してほしい旨述べ、原告もこれを了解していた。
7 原被告らは、「土木工事依託証」、「依託委任状」及び「注文書」にかかる依頼に関する報酬額をいくらにするかについて協議したことはなかつたが、被告らは、「土木工事依託証」を原告に交付する以前に、少くとも中村から、原告が小松建設のコンサルタントで、小野田市有汎の土地や宇部市小野の土地の開発などに関与している者であると聞いていた。
8 原告は、右のような話し合いを進め始めた同年七月初旬ころ、堤に対し、本件土地の全体を一括して宅地造成するとした場合の概算見積はどの位になるかを算出してほしい旨頼み、同人は、同月一二日、見積総額が二億三六五〇円になるとの見積書(甲第二三号証)を原告に提出した。また、原告は、堤に対し、右見積依頼をなしたころから少くとも二度に亘つて本件土地の宅地造成のレイアウト図の作成をも依頼し、これを受けて同人は、レイアウト図三枚(甲第六号証の二ないし四)を作成して原告に交付した。
なお、右見積やレイアウト図作成の依頼は、原告が本件土地の造成を行うにあたり、その参考の用に供するためになしたものであつて、原告は、出来上つた見積書やレイアウト図を被告らに見せたりはしなかつた。
また、原告は、堤に対し、右見積書及びレイアウト図作成の報酬として三〇万円を支払つた。
9 原告は、被告らとの間で話し合いを続けていた同年七ないし八月ころ、宇部市役所に赴き、本件土地の用途地域の指定内容、道路や下水道などの敷設計画などの調査をなしたが、その際、宇部市の職員から、本件土地をいらわないで欲しいとの話を受けた。
10 原告と被告岡は、同年八月二六日、両名の共同名義で、株式会社京井測量設計事務所(以下、「京井測量」という。)に対し、本件土地の地積測量、地形測量及びマスタープランの作成を、報酬二〇〇万円で委任し、その際、原告が、報酬内金(着手金)として七〇万円を支払つた。その後、京井測量は、本件土地の測量を実施したが、その際、被告らは、右測量に立ち会つて、境界の指示などをした。そして、京井測量は、右測量や公図の調査結果に基づき、地積測量図、地形測量図、計画平面図、計画横断図など(甲第八号証の一ないし四、同号証の五のAないしC及び同号証の六)を作成し、同年九月二六日ころ、これを原告に交付して、原告から報酬残金一三〇万円を受領した。
11 原告は、同年九月ころ、不動産鑑定士の須子静夫に対し、本件土地の担保価値算定の参考資料とするためにその地価を鑑定してほしいと依頼し、これを受けて、須子は、同年一〇月一一日ころ、本件土地の地価は一平方メートルあたり四九九〇円で、本件土地全体では八一〇一万六〇〇〇円になるとの鑑定評価書(甲第九号証の一)を作成し、同月二五日、その報酬として、原告から二〇万円を受領した。
12 原告は、当時、本件土地近辺に常駐していた訳ではなく、大阪と宇部との間を行き来しており、そのため、同土地の宅地造成や販売を円滑に行うには、同土地近辺に拠点となる事務所を設ける必要があつた。
そこで、原告は、同年九月初旬ころ、中村をして、宇部市大字東須恵三五〇七番地の二の土地上の建物を、西山弼から、家賃一か月八〇〇〇円、期間二年間の約定で借り受けさせたうえ、大工の岡田三良に依頼して同建物を事務所(以下、「本件事務所」という。)に改装した。
右改装工事を請負つた岡田は、被告側が紹介したもので、原告は、同年一〇月二一日、岡田の原告宛の請求に従い、請負代金三七万一一九〇円を支払つて、岡田から原告宛の領収書(甲第一二号証の二)を受領した。
なお、右建物の同年九月から同五三年一月までの家賃合計四万円と敷金三万円は、原告が資金を出して、中村に納めさせた。また、原告は、自己の費用負担で、中村をして、その名義で電話を中村事務所に引かせた。
そして、原告は、同年一〇月一一日、本件事務所に旭商事という看板を出し、同事務所を利用した事務処理を始めた。
13 原告は、同五二年九月初旬ころ、中村及び被告岡に対し、本件土地に進入する道路の拡張工事や宅地造成工事及び上下水道敷設工事を実施する前提として隣地所有者から道路拡張用地の買収や右工事についての同意をもらうよう指示し、これを受けて、右両名は、そのころから、隣地所有者との間で事情説明会を開催するなどし、同年一〇月七日ころ、隣地所有者から、進入道路売渡承諾書(甲第一九号証の一ないし五)や工事に関する同意書(甲第二〇号証の一ないし七)を取得した。
14 原告は、自己の職務の補助をさせるため、同年九月中旬ころ、吉田房夫を雇い入れ、また、同年一〇月一一日ころには木村哲俊及び中村留吉(以下、「留吉」という。)をも雇い、留吉が経理関係を、吉田が市場調査や被告らとの折衝の補助などを、それぞれ担当した。
なお、吉田が行つた市場調査は、宇部市土地開発公社が開発分譲した小羽山ニュータウンの募集案内や宇部市内で他の業者が分譲をしていた土地の折り込み広告数件を入手する程度のことであつた。
15 同年一〇月ころ、本件土地への進入道路の土砂が高野豊所有にかかる隣接地に流入し、同人から苦情が出たため、原告は、右土砂を取り除いたうえ、高野所有地を、永久嘉博土地家屋調査士に依頼して測量し直し、同月二二日、同人に対し右測量の報酬として二万二九〇〇円を支払つた。
16 原告は、自己及び中村がいずれも宅地建物取引主任者の資格を有していなかつたことから、本件土地の販売のために右資格を有する安井将美の助力を得ることとし、同年一〇月二二日、同人の住民票を中村事務所の所在地に移した。
17 原告、中村及び吉田は、以上の如き本件土地造成工事の準備を進めていた間も、被告らの代表である被告岡などと何度も会合を重ね、また、被告らの多くとの直接の説明会なども数回に亘つて開催したが、その間、被告らの意見は必ずしも一致していた訳ではなく、本件土地を造成する必要性に乏しいとか、原告の案による宅地造成では被告らの取り分が少なすぎるなどといつた意見も出ていた。
こうした中で、原告は、被告らに対し、同年一〇月ころ、本件土地を造成し終えた後の造成地の処理について被告らの誰が「買取り方式」をとり、誰が「歩分け方式」をとるのかをはつきりさせたいので、その旨を明記した原告宛の「売渡し承諾書」(乙第五、第七号証)に署名押印し、印鑑証明書を添付して提出してほしいこと、また、工事を着工するにあたり、宇部市農業協同組合などの金融機関から本件土地を担保に借入れをするので、被告らが借主になつてほしいことを求めたところ、被告らの中から、印鑑証明書などを付けた売渡し承諾書を出したのでは原告に自己所有地を取りあげられてしまうかもしれないという声が起こり、また、右借入名義人となるについても被告らは難色を示した。
そこで、原告も立腹し、被告らが右のような態度をとるのであれば、自分は本件土地の造成計画から下りることにするので、これまでに要した費用を返してほしいと強い口調でのべた。
これに対し、被告らは、中村をも交えて再度内部で協議し、同月末ころ、被告岡、同松岡、同登、同天野、同作村及び中村が連署した「被告らは今後本件土地の開発に関し、貴殿の指示に従う。進入道路の土地買収費及び工事費について金融機関から借入をする場合には、右連署した被告らが借入名義人となり、中村も連帯保証に応じ、本件土地を担保に供する。」などの内容の旭商事代表代理原告宛の「誓約書」(甲第五号証)を原告に差し入れた。
なお、被告らは、同年九月下旬ころ以降、本件土地の土砂採取をしていた厚南産業から、原告との間で進めている宅地造成計画を取り止めるよう働きかけを受けるようになり、さらに、同年一〇月ころには、地元の行政書士である藤井亮や不動産業者の田村秀夫からも、右宅地造成計画にはいろいろと問題があるなどと言われ、同月中旬ころには、田村から中村を通じて原告に対し、右問題点について質問してもらつたが、原告は、右質問内容は既に同年七月ころから被告らとの間で何度も直接話し合い説明してきたところであり、今更第三者の質問に答える必要はないとして相手にせず、被告らとの間で右のとおり折衝を続け、「誓約書」が出されるに至つたものである。
また、宇部市農協には、右誓約書が出されたころ、被告岡ほか三、四名の被告らが訪れ、本件土地を担保として工事資金の融資を受ける件について同農協と話し合つたことがあり、また、同じ頃、吉田も、右融資申込の準備のために山本と面談した。
18 ところが、被告らは、同年一一月一〇日に至り、本件土地上に立入禁止の看板を立て、同月一四日には、田村とも協議したうえ、被告らの代表である被告岡、同天野及び同松岡が連名で、原告に対し、「貴殿を信用できなくなつたので、これまで渡した一切の書類及び印鑑証明書を無効とする。」との内容証明郵便(乙第一号証)を発送し、右書面は、同月一五日に原告に到達した。
これに対し、原告の使用人である吉田は、右立入禁止の看板が立てられた後の同月一四日、被告岡と会つて、同人から被告らの意向を聴取し、さらに、その後も、同月末日まで、原告、中村及び吉田などが集つて善後策を協議したり、吉田と木村が被告岡らと面接交渉するなどしたが、結局、原告は、同年一二月一日をもつて中村事務所を閉鎖し、本件土地の造成開発から手を引いた。
なお、被告らは、その後、田村を仲介人として本件土地を売却しようと考え、田村は、まず永沢建設という会社に話を持ち込んだが成約には至らず、さらにサン・グリーンという会社に話を持ち込んで、昭和五五年ごろ、同社に売り渡した。
以上のとおり認められ、<証拠>中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らし、たやすく措信し難く、他に右認定に反する証拠はない。
二しかして、右認定事実を総合すると、原告と被告らの代表(代理人)である被告岡、同天野及び同松岡との間で、遅くとも昭和五二年八月一一日ころまでに、(1)被告らが本件土地に防災工事を施したうえ、これを造成して、その一部の者は造成後その所有部分を売却し、その余の者は、造成地のうち旧所有地の価値に相当する部分を取得することとし、(2)右宅地造成の計画準備・立案・遂行から販売に至る資金調達をも含めた一切の事務を原告に委ねることとするとの内容の委任ないし準委任契約を締結し、これを受けて原告は、その後、宅地造成や販売のための準備行為を順次処理してきたが、同年一一月一五日に至り、被告ら(の代理人である被告岡、同天野及び同松岡)が原告に対し、右契約を解約する旨の意思表示をなしたため、右契約が終了したものと認めるに充分である。
そして、前記認定事実によれば、原被告ら間には、右契約受任者たる原告の報酬についての具体的な話合いはなかつたけれども、被告らは、原告が宅地造成等に関与することを業とする者で、本件においても自己の営業として右契約を受任しようとするものであることを充分に認識しながら右契約締結に至つたというのであるから、右契約において、原被告ら間で、宅地造成及び販売などの事務一切が完了した時点に時価相当額の報酬を被告らが原告に支払うとの黙示の合意をなしたものと認めるのが相当である。
そうすると、被告らは、連帯して、原告に対し、原告が右契約に基づく事務を処理するために相当の注意を払つて必要と判断して支出した費用及び右事務処理の程度に相応する報酬を支払うべき義務があるものというべきである。
三被告らは、小松建設と契約したものであるとか、同社が工事を施工するものと誤信していたとか主張し(被告の主張1及び2)、<証拠>中には、右主張に沿う供述ないし記述部分があるが、(1)原告と被告らが本格的に交渉を開始する以前に、小松建設は本件土地の開発への関与を正式に断わる旨を被告らに直接表明していること(前記一4に認定)、(2)被告らが原告に差し入れた「依託委任状」(甲第二号証の一)の宛名は原告個人になつていること(前記一6に認定)、(3)被告岡は、京井測量に対し、原告個人と共同名義で、本件土地の地積測量等を依頼していること(前記一10に認定)、(4)中村事務所を改装するに際し被告岡が紹介した大工は、右工事請負代金を原告個人に請求し、領収書も原告個人宛に出していること(前記一12に認定)、(5)被告岡、同松岡、同登、同天野、同作村及び中村が連署した「誓約書」(甲第五号証)も旭商事代表代理たる原告宛になつていて、小松建設の名は一切出てこないこと(前記一17に認定)、などの各点に照らすと、右供述ないし記述部分は到底措信し難いものといわざるをえない。
もつとも、「土木工事依託証」(甲第一号証)が「貴社に委託する」となつていることは前記一6に認定したとおりであるが、(1)右「貴社」がいかなる会社を指すかについては右「土木工事依託証」には何ら記載がないうえ、(2)右書面より後に原告に交付された「依託委任状」や「誓約書」が原告なり旭商事代表代理たる原告宛になつていること、(3)右「依託委任状」と同時に原告に交付された「注文書」(甲第三号証の一)には宛名が記載されていないところ、「土木工事依託証」と「注文書」はいずれも本件土地の工事に関する発注書であつて、原告自身は土木業者ではなかつたことから(原告本人の第一回尋問結果により認められる)、「土木工事依託証」と「注文書」は、いずれも原告が本件土地の造成工事を専門の土木会社に請負わせるときのために受領していたのではないかとも考えられ、そうだとすると、「土木工事依託証」が「貴社」宛になつていても不自然でないこと、などに照らすと、右「土木工事依託証」の記載だけでは前記認定を左右しないし、また、被告らの主張事実(錯誤、詐欺)を認めるに足りないものというほかない。
また、前掲甲第六号証の四(堤作成のレイアウト図)及び同甲第二三号証(堤作成の見積書)には、小松建設がレイアウト図や見積書の作成者であるとの記載があるが、右レイアウト図や見積書を原告が被告らに見せたことのなかつたことは前記一8に認定したとおりであつて、このことは、被告岡も、その本人尋問において供述するところであるから、右記載をもつて被告らの主張の根拠とすることもできない。
そして、他に、右被告らの主張事実を認めるに足る証拠はない。
四被告らは、原告が事務処理の途中でこれを放擲したかの如く主張する(被告らの主張3)が、右事実を認める証拠はないばかりか、かえつて、前記一に認定した事実によれば、本件契約は被告らの解除の意思表示により終了したもので、原告は、右意思表示の以前はもとより、その後も、本件契約を維持続行させようとしていたことが認められるから、右主張は理由がない。
五被告らが原告に償還すべき費用について判断する。
1 土地を宅地造成するためには、その地積及び地形を測量し、これに基づいてマスタープランを作成することが必要不可欠というべきところ、原告が被告岡とともに京井測量に対し右事務の処理を委任し、その報酬として原告が二〇〇万円を同社に支払つたことは前記一10に認定したとおりであるから、右支出が本件契約に基づく事務の処理として必要な費用の支出にあたることは明らかである。
2 原告が、本件土地価格の鑑定を須子に依頼し、その報酬として二〇万円を同人に支払つたことは前記一11に認定したとおりであり、これは本件土地の造成工事や販売のための資金調達の準備としても、また、本件土地販売価格を決定するための準備としても有用なものというべきであるから、原告が右鑑定を必要であると判断してこれを依頼し、右報酬を支払つたことは、受任者として相当なものと認められる。
3 原告が堤に対し本件土地造成工事の見積とレイアウト図の作成を依頼し、その報酬として三〇万円を支払つたことは前記一8に認定したとおりであり、これは本件土地造成計画を確定し、右工事を発注するための準備として有用なものというべきであるから、原告が右見積及び図面の作成を必要なものと判断してこれを支払い、右報酬を支払つたことは、受任者として相当なものと認められる。
4 原告が、本件事務所の設置を要するものと判断し、中村をして同事務所を借り受けさせたうえ、改装工事を行い、家賃として四万円を、改装工事代金として三七万一一九〇円を支払つたことは前記一12に認定したとおりであり、同所に認定した事情に照らすと、右原告の処理は受任者として相当なる判断に基づくものと認められる。
なお、原告が本件事務所の借り受けに際し敷金として三万円を支払い、また、同事務所に自己の計算にて電話を引いたことは前記一12に認定したとおりであるが、敷金は賃貸借契約が終了した際、返還を受けうるものであるし、電話は、これを処分してその設置費用を回収しうるものであるから、結局、右支出をもつて、被告らが原告に償還すべきものと認めることはできない。
5 原告が、永久に対し高野所有地の測量を依頼し、その報酬として二万二九〇〇円を支払つたことは前記一15に認定したとおりであり、右原告の処理は、同所に認定した事情のもとにおいては、本件土地の造成販売を円滑ならしめるために必要なものということができる。
6 <証拠>を総合すると、原告は、中村に対し、同人が本件土地の造成、販売の準備行為に携わることの報酬として、昭和五二年八月二九日に五〇万円、同年九月三一日に四〇万円を支払い、また、原告が雇い入れた吉田、木村及び留吉に対しても、給料や通勤手当などを支給したことが認められる(右認定に反する証拠はない。)が、原告の雇い人である吉田、木村及び留吉はもとより、中村についても、前記一に認定した同人の事務内容に照らすと、原告の本件契約に基づく事務処理の補助者にすぎないというべきであるから、右四名から労務の提供を受けることに関し支払つた金員は、独自の費用とみるべきでなく、むしろ原告が受領すべき報酬中から支出すべきものというべきである。
7 <証拠>によれば、原告及び吉田は、本件土地近辺に滞在する際、よしの旅館に投宿したことがあり、原告は、昭和五二年九月二六日及び同年一〇月三一日に、一〇月分及び一一月分の宿泊費としてそれぞれ月額三万五〇〇〇円を前払いしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
しかしながら、原告が大阪と宇部の間を行き来していたことは前記一12に認定したとおりであるところ、<証拠>によれば、原告は、昭和五二年一〇月一一日本件事務所を開設して以後、同月一六日に宇部に赴いて同月二〇日に同所を離れ、同月二五日に再度同所に赴いて同月二八日に同所を離れ、同年一一月五日に同所に赴いて同月一五日に同所を離れ、同年一一月二八日に同所に赴いて同月三〇日に本件事務所を閉鎖する旨決定したことが、他方、吉田は、同年一〇月一四日から同月一七日までの間、同月二六日から同月三一日までの間、同年一一月一九日から同月二三日までの間、それぞれ宇部を離れていたが、その余の間は宇部に滞在していたことが、それぞれ認められ(右認定に反する証拠はない。)、そうすると、右宿泊費の三分の二は吉田が投宿するために充てられていたものというべきところ、同人の宿泊費は、原告が事務処理の補助者として同人から労務の提供を受けるためのものであるから、給料等と同様、独自に費用として掲げるべきでないものというべきである。
そうすると、右宿泊費の約三分の一である二万三〇〇〇円をもつて、原告が被告に償還請求しうる費用と認めるのが相当である。
8 <証拠>によれば、留吉は、原告の計算により、別表記載のとおり、備品や消耗品の購入、光熱費の支払い等をなしたことが認められる(右認定に反する証拠はない。)ところ、原告が本件事務所の設置を要するものと判断したことが受任者として相当なものと認めうることは前記4に判示したとおりであり、また、<証拠>によれば、本件事務所は、吉田や留吉などが事務をとつていただけでなく、被告岡らが訪れて原告などと会合をもつたことも何度もあつたこと、原告や吉田らは、本件事務を処理するために写真撮影をしていたことが認められる(右認定に反する証拠はない。)。
しかしながら、他方、事務所の備品類は本件契約が終了した時点においてこれを処分して購入額の一部を回収することが可能であるし、また、<証拠>によれば、ガソリン代や駐車料金は吉田の自家用車のためのものであることが認められ、そうすると、右ガソリン代等は、交通費としての性格をもち、給料等と同様、独自の費用に該当するものではないというべきである。
右の諸点を考慮するとき、右支出した費用のうち、一五万円をもつて、原告が被告らに償還請求しうる費用と認めるのを相当と思料する。
9 <証拠>によれば、留吉は、吉田に対し、同人の旅費として、三回に亘り、合計二万三八〇〇円を原告の計算で支出したことが認められるが、右旅費の支出が本件契約に基づく事務処理のために必要であつたことを明らかにする証拠はなく、かえつて、前掲甲第一七号証と同第二一号証を対照すると、右甲第一七号証の帳簿の摘要欄記載の日付は、吉田が宇部に戻つた日時を示すものと認められるところ、右甲第二一号証には、同人が昭和五二年一一月一日に宇部に戻つてきた際の旅行は同人の私用のためであり、同月二四日に戻つてきた際の旅行も「帰宅」のためであるとの記載が存するのである。
そうすると、右支出をもつて、被告らが原告に償還すべきものと認めることはできない。
10 前掲甲第一七号証中には、留吉が昭和五二年一〇月二一日に九九〇〇円を交際費名目で支出した旨の記載があるが、右支出が本件契約に基づく事務処理のために必要であつたことを認める証拠がないから、右支出をもつて、被告らが原告に償還すべきものと認めることはできない。
11 前掲甲第二四号証中には、これまでに認定した以外にも原告が相当額の費用を支出した旨の記載があるが、右甲第二四号証は、原告らが被告らに宛てた請求書であつて、その明細も大ざつぱなものであるうえ、右記載にかかる費用が現実に支出されたことを裏づける的確な証拠も存しないから、右記載内容はたやすく採用することができない。
12 以上の次第であるから、被告らは原告に対し、三一〇万七〇九〇円を償還すべき義務があるが、これを超える金額を償還すべき義務の存在を認めることはできない。
六原告の報酬について
本件契約に基づく委任は受任者たる原告の責に帰すべからざる事由によりその履行の半途において終了したものであるところ、右契約においては、原告の報酬額が具体的には合意されていなかつたことは既にみたとおりである。
ところで、報酬額について具体的約定がない場合、当該委任にかかる事務が全て処理し終えたときには、委任を受けた事情、委任事務処理に要した期間、同事務処理に要した労力、委任事務の難易、委任者の利益に対する貢献度等諸般の事情を総合して報酬額を決定すべきものであるが、本件においては、委任は履行の半途において終了してしまつたうえ、右終了時においては未だ防災や造成等の工事費用がいくらになるのかさえ決定されていなかつたのであつて、原告が予定していたように二年間で委任事務処理が終了して委任者たる被告らに利益がもたらされたかどうかは予測の限りでなく、むしろ、本件契約にかかる造成販売計画を実現しえたかどうかに疑問の余地もあることは後記のとおりであるから、委任事務終了時において原告が受くべき報酬額を算定したうえで本件契約解除時における履行の割合に応じた報酬額を算出するという手法をとることはできない。
そこで、このような場合には、履行の半途において委任が終了したときにもその時点における相応の報酬請求権を認めようとする民法六五〇条三項の趣旨に照らし、受任者が処理した事務の内容、その全体の事務に占める程度、今後の事務処理実現の可能性など諸般の事情を考慮して、給付された労務に相当する報酬を定めるべきものと解するのが相当である。
そこで、これを本件についてみるに、前記一に認定したところによれば、原告は昭和五二年七月から同年一一月までの間四か月余りに亘つて、本件契約に基づき、補助者をも使いながら、本件土地を造成・販売するための準備行為に従事してきたこと、しかしながら、本件契約が解除された時点においては準備行為の一部が済んだのみであつて、造成工事着工はもとより、その前提となる工事業者の選定や、更にその前提となる実施設計図書の作成にも取りかかる以前であつたこと、本件土地の造成については、本件契約締結前に浅沼組や小松建設に話が持ち込まれたが、いずれも成約に至つておらず、ことに小松建設は本件土地が上下水道設置位置からかなり離れていることなどを理由に右の話を断つていることに照らすと、被告らに採算がとれるような金額で工事を請負う業者を見い出しえたかにも疑問の余地があり、少くとも請負業者の選定には相当の困難を伴つたであろうと窺われること、原告が想定していた本件土地の造成計画は、国土法などの規制を潜脱するため、まずは防災工事ということにして造成工事を実施し、そのうえで被告ら各自が所有する土地部分を順次ミニ開発するという形式を採るというものであつたが、このような方法を採つたとしても行政官庁の建築確認等の手続をすり抜けることができたかどうかにも疑問の余地があること、本件土地の造成に要する費用は、堤の見積によれば、工事費だけでも二億円を大きく超過するのに、本件土地の担保価値は須子の鑑定によつても八〇〇〇万円余りであつて、資金調達が可能であつたのかどうかにも疑問があり、少くとも資金調達に要する労力も相当なものになるであろうと窺われるが、委任終了時においては、未だ資金調達に関する事務は緒についたにすぎなかつたこと、もつとも、本件契約に基づく委任事務が未だ余り処理されていなかつたのには、被告らの足並みが揃わず、原告やその補助者がこの点に労力をとられていたことにも一因があること、などの各点を指摘しうるのであり、これらの事情を総合考慮すると、本件契約解除時において原告が受くべき報酬は一〇〇万円をもつて相当とするものと認める。
七以上の次第で、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し、四一〇万七〇九〇円及びこれに対する本件契約解除日の後である昭和五二年一二月一日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官中田耕三 裁判官松永眞明 裁判官始関正光は転補につき署名・捺印することができない。裁判長裁判官中田耕三)
物件目録
(一) 山口県宇部市大字東須恵字代ノ田東一一五七番二
山林 一六七六m2
(二) 右同所一一五七番三
山林 二一六三m2
(三) 右同所一一五七番四
山林 七六三m2
(四) 右同所一一五七番五
山林 七六三m2
(五) 山口県宇部市大字東須恵字柳ケ内一一四七番
山林 二九七五m2
(六) 右同所一一五〇番一
山林 三四九四m2
(七) 右同所一一五〇番二
畑 九〇五m2
(八) 右同所一一五一番
山林 七五〇m2
(九) 右同所一一五二番
山林 四九五m2
(一〇) 右同所一一五三番
山林 四九五m2
(一一) 山口県宇部市大字東須恵字木庄一一五五番
山林 一〇九〇m2
(一二) 右同所一一五七番
山林 四九五m2
(一三) 右同所一一五八番
山林 一二九二m2
(一四) 山口県宇部市大字東須恵字崩ノ尾一一四四番
山林 二九七m2
(一五) 山口県宇部市大字東須恵字荒田三四八四番一
田 六九六m2
別表<省略>